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福岡地方裁判所小倉支部 昭和39年(む)386号 判決

被疑者 矢坂顕

決  定

(被疑者氏名略)

右の者に対する銃砲刀剣類等所持取締法違反、火薬類取締法違反被疑事件について、勾留中のところ、昭和三十九年十月二十九日福岡地方裁判所小倉支部裁判官鈴木禧八のなした接見禁止等の裁判に対し、弁護人水谷利之からその取消を求める旨の準抗の申立があつたから、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

昭和三十九年十月二十九日福岡地方裁判所小倉支部裁判官鈴木禧八のなした被疑者に対し刑事訴訟法第三十九条第一項に規定する者以外の者との接見を禁止し又書類その他の物の授受を禁ずるとの裁判は、これを取り消す。

理由

一、本件申立の理由は、事件関係人と目される他の被疑者及び被告人の検察官の取調がほとんど終了し、罪証隠滅のおそれはない、というにある。

二、よつて検討するに、本件各資料によれば、被疑者に対する被疑事実の要旨は、法定の除外事由がないのに、昭和三十九年九月二十一日ごろ自宅で、田中政美、大西常夫からけん銃一丁と実包五十二発を十二万円で買い受け引き続き同所でこれを所持したというのであつて、被疑者は、けん銃を買い受けたことはなく、そのころ右田中に十二万円を貸したにすぎないと弁解しているのであるが事件関係人の右大西、中本三男は、捜査機関に対してけん銃等を被疑者に十二万円で譲り渡した旨を供述しており、捜査の経過からみてその供述は真実性が高いと考えられ、他にこれを裏付ける書証も存するうえさらに、特に重要関係人と考えられる右大西、中本は既に他の事件で勾留されているため、右の者らに対し、虚偽の供述をするよう働きかける余地はきわめて少ないといえる。ただ、けん銃の受渡しを仲介したとみられる前記田中は逃走中であつて、これに対する捜査機関の取調が未だ終了していないことが明らかであり、被疑者において右田中に虚構の事実を供述させるように働きかけるおそれがないとはいえないけれども、同人と被疑者は、ともに北九州市小倉区で勢力を有する工藤組の幹部であつて、被疑者との親密な関係を考えれば右田中の供述に、特段の重要性を認めることはできない。そして、既に被疑者は勾留中であり、証拠物としてのけん銃一丁及び実包五十二発が押収されている現段階においては、被疑者の接見交通等を制限しなければならないような強度の罪証隠滅のおそれがあるとは認めがたい。

三、そうすると被疑者に罪証を隠滅すると疑うに足りる事由ありとして接見、物の授受を禁じた原裁判は失当であつて本件請求は理由があるものというべきであるから、刑事訴訟法第四百三十二条、第四百二十六条第二項を適用して、主文のとおり、決定する。

(裁判官 坂本義雄 富川秀秋 上田耕生)

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